FT-IRのお仕事

Fourier Transform Infrared Spectroscopy

赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)って何だ?

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赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)って何だ?

昔、スペクトルマンという特撮ヒーローがいました。
今から何十年も昔の話です。


スペクトルって何だ?

物質に光(電磁波)を当てると、ある波長のエネルギーは吸収され、他の波長のエネルギーは透過します。

ここで電磁波の波長(または波数)を横軸にとり、縦軸に試料に吸収された電磁波の強度をプロットします。

こうして得られた2次元図のことを「スペクトル」と呼びます。

スペクトルは物質固有の情報集合体であり、スペクトル縦軸の電磁波強度は物質の量(濃度)を表しています。

波長が異なる(エネルギーが異なる)多くの種類の電磁波を物質に照射し、どの波長の電磁波が吸収されたかを調べれば、その物質の吸収スペクトルを得ることができます。


赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)って何だ?

一般に横軸に赤外線の波数、縦軸に透過率をプロットしたスペクトルを赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)と呼びます。

電磁スペクトルの赤外線領域は可視光のすぐ上(750nm)から大体100万nm(1000 μm=1mm)までの範囲に相当します。

分子の赤外スペクトル測定で利用されるのは波長2500nm(2.5μm)~25000 nm(25μm)の赤外領域です。


波長と波数の換算方法

赤外吸収スペクトルの横軸は波長λではなく波数νで表します。

波数は1/λに等しくcm-1の単位で表されます。

波数〔cm-1〕= 1 ÷ 波長〔cm〕

波数の単位〔cm-1〕は「波長1 cm あたりの赤外線の波の数」を意味します。

波数はあまりなじみがない単位ですが、cm=1000万nm ということを知っていれば、以下の式から波長〔nm〕から波数〔cm-1〕に換算できます。

波数〔cm-1
= 1 ÷ 波長〔cm〕
= 1 ÷ 波長〔cm=1000万nm〕

波数〔cm-1〕 = 1000万 ÷ 波長〔nm〕

2500 〔nm〕 → 4000〔cm-1
25000 〔nm〕 → 400〔cm-1

なお、波長〔nm〕=1000万 ÷ 波数〔cm-1

赤外分光分析で使用する波数領域

赤外分光分析で使用する波数〔cm-1〕の範囲は4000cm-1 ~ 400cm-1が一般的です。
赤外領域の電磁波は主として原子間の結合に吸収されるので、特定の化学結合(官能基)には特定のエネルギーの赤外線が吸収されます。
これにより分子中にどのような官能基が存在しているのか、定性分析することができます。


IRスペクトルのミクロ的なイメージ

試料分子は特定の波長の赤外線を吸収し、ほかの波長の赤外線は吸収しません。

分子はすべてエネルギーを持っており、このエネルギーは結合の伸縮や変角、原子の縦ゆれや横ゆれ、および他の分子振動を引き起こします。

分子が持っているエネルギーの量は連続的なものではなく、量子化されています。
これはあるエネルギー準位に対応する振動数でのみ、分子は振動することができることを意味します。

試料分子に赤外線を照射し、振動している化学結合の振動数が照射光の振動数と一致すれば、赤外線のエネルギーが吸収されます。

エネルギーが吸収されると、その振動している化学結合の振幅が増大します。

イメージとしては、原子間をつないでいるバネ(化学結合)が赤外線の照射以前よりも激しく伸び縮みします。

この領域の電磁波のエネルギー吸収を検出し、波長に対して透過した光のパーセント(透過率、%T)をプロットすると、あらゆる物質は分子中に特定の結合を含んでいるので必ず固有の赤外吸収パターンを示します。

これが赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)です。


IRスペクトルから分かること

IRスペクトルを測定することにより、分子がどのような種類の運動を持っているか調べることができます。

そして、その分子運動を解析することによって、その分子中にどのような種類の結合(官能基)が存在するかが分かります。

特に特定の官能基の存在を意味する特定吸収帯の存在は、未知試料がどのような性質を持っているかについての有力な情報となります。

IRスペクトルの応用

赤外吸収スペクトルは分子ごとに特有なスペクトルが得られるので、未知物質の同定などに広く利用されています。

たとえば考古学の分野では赤外分光法は繊維や琥珀(こはく)のような有機物質の産地推定に用いられることがあります。

さらに古い絵画の素材調査といった試料が極少量の場合の分析にも用いられます。


赤外吸収スペクトル活性であることの条件

赤外分光法で重要なのは双極子モーメントの変化を伴う振動(伸縮振動と変角振動)です。

赤外吸収という現象を量子力学的に考えると、分子が赤外線と相互作用して低い振動エネルギー準位から高い振動準位は遷移が生じる際に、これらの準位の間隔に対応する振動数の赤外線が吸収されます。

赤外線吸収スペクトルに現れる振動は、その振動によって分子または結晶の双極子モーメントが変化するものだけなのです。

例えばCO2分子の逆対称伸縮振動や変角振動は赤外吸収スペクトルに活性ですが、対称伸縮振動は赤外不活性です。
このように分子の赤外線吸収は分子振動に伴って双極子モーメントが変化する場合に生じます。

一方、対称芯を持つ分子で、赤外スペクトルに現れない振動はラマン効果に基づくラマンスペクトルに現れます。

例えば直線2原子分子のH2、O2、N2、Cl2などは赤外吸収スペクトルに不活性で、ラマンスペクトルに活性です。


ラマン分光法とは

ラマン分光法とは、分子振動のうち分子の分極率の変化を起こすものによって生じる入射光の波数変化を測定する分析法のこと。

なお、この入射光の波数変化をラマン散乱というので、ラマンスペクトル法とも呼ばれています。

ラマン分光法は有機官能基の分析に使うことができ、水溶性試料の測定などでIRにできないことを補完することができます。


赤外分光法とラマン分光法

ラマン効果は分子の振動により分極率が変化する場合に観測されます。

対象芯を持つ分子では、赤外吸収スペクトルとラマンスペクトルとの間に交互禁制律が成り立ち、一方のスペクトルで活性の振動は、他方では不活性になります。


(1)赤外分光法とラマン分光法の「両方で」観測される振動

一酸化炭素COや塩化水素HCl

(2)赤外分光法はダメ ラマン分光法のみ観測される振動

直線2原子分子のH2、O2、N2、Cl2など

酸素分子や窒素分子などの「等核」2原子分子では、振動が起こっても双極子モーメントは変化しないため、赤外不活性。
ただし、分極率は変化するためラマン活性。