FT-IRのお仕事

Fourier Transform Infrared Spectroscopy

原子吸光分析の干渉と対策

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原子吸光分析と干渉

原子吸光分析(AAS)では基底状態の遊離原子以外にも共存物質が存在する。

この共存物質は様々な干渉を引き起こし、これにより分析対象元素の吸光度が真の値よりも上がったり、下がったりする。

バックグラウンド(BKG)とは

バックグラウンドとは、分析対象である金属元素の吸収がそれ以外の吸収によって散乱したり、他の元素の吸収に隠れてしまったりすること。

実際の原子吸光分析(AAS)におけるフレームや電気加熱炉では、すべての元素が原子化されているわけではない。

分析対象の金属原子のほかに、一部はいくつかの原子が結合した分子状態で存在する。

あるいは分子よりも大きな粒子として存在する。

これらの分子や粒子は分子吸収や光散乱の原因になる。

また、有機物やアルカリ金属などの塩類の分子による光吸収が起こり、これらは見かけの吸光度を増大させてしまう。

このような光の吸収をバックグラウンド吸収、またはバックグラウンドという。

原子吸収はこれに重なって観測されるので、正しい値を求めるにはバックグラウンドを差し引かねばならない。

真の吸収 = 見かけの吸収(目的元素の吸収+BKG) - BKG

例えば、海水のように数%オーダーの多量のNaClを含んでいる場合、
Naが吸収する波長とCdやNiが吸収する波長が重なっているため、
ppmオーダーの微量のCdやNiは測定できない。

BKGの補正では、どうやってBKGの測定だけを測定するかということが重要になる。

原子吸光のバックグラウンド補正方法

1.連続スペクトル方式:重水素ランプ補正法

光源にホロカソードランプ(HCL)と重水素ランプ(D2ランプ)またはタングステンランプを使用した方法。

偏光ゼーマン方式が登場する以前から存在した、昔ながらの方法。

この補正法はHCLを光源とする光度計とD2ランプを光源とする光度計があると考えると分かりやすい。

(1)HCLを光源とする光度計

原子蒸気の吸収+BKGの吸収が測定される。

(2) D2ランプを光源とする光度計

BKG吸収のみが測定される。

真の原子吸収量 = (1) - (2)


原子吸収のピークは鋭い

重水素ランプのスペクトル幅は1nmから0.5nm。
(分光器の通常のスリット幅)

一方、原子吸収に用いる中空陰極ランプからの共鳴線のスペクトル幅は非常に小さく、分光器の通常のスリット幅である1nmから0.5nmの1/1000程度。

重水素ランプを光源とする連続光源による測定では、測定対象元素自身の吸収は、線幅が非常に小さいので無視できる。

バックグラウンド補正を考えたとき、補正用連続スペクトル光の吸収はスリット幅一杯に入ってくるので、これに重なる非常に鋭い原子吸収ピークの影響は減殺されてしまい、無視できることになる。


2.偏光ゼーマン方式

磁場でゼーマン分裂したスペクトルを用いる原子吸光法に特有の方法。

偏光ゼーマン方式とは、磁場によって試料中の原子のスペクトル線を分裂させ、バックグラウンド補正に利用する方法。

高磁場によって
原子はゼーマン効果により偏光を帯びる。
分子や粒子は偏光を帯びない。

これら差し引きして、真の原子吸収量を算出する。

偏光ゼーマン方式のメリット

近接線による吸収を正確に補正できる

分析元素と同一の波長でバックグラウンド補正ができる


ゼーマン効果(Zeeman effect)とは

1891年にオランダのゼーマン(Zeeman)が発見した現象。

高磁場に原子を置くと、一本だった原子のスペクトル(波長)が何本かに分裂し、偏光するというもの。

分裂する本数は3本の時もあれば、4本、5本、あるいはそれ以上のときもある。


3.非共鳴近接線方式

中空陰極ランプの近接線を用いる

共存する元素の吸収線が分析しようとしている元素の吸収線に近接している場合に生じる


4.自己反転方式

中空陰極ランプの自己反転を利用する


化学干渉

化学干渉とは、分析しようとしている元素が試料中に共存する元素と反応して、その結果、吸光度が低下すること。

特に電気加熱式AASはフレーム式AASに比べて干渉を受けやすい。

なお、元素を意図的に添加することにより、共存元素による干渉をコントロールすることもできる。
これをマトリックスモディファイヤー(マトリックス修飾剤)と呼ぶ。

マトリックスモディファイヤーとは

一般に塩分濃度の高い海水試料ではバックグラウンド吸収が高く、測定の妨害となる。

そこで、ある種の塩分を添加し、灰化時に高温でNaと一種の化学干渉を行わせることで結果的に測定対象成分の感度を増大させることが行われる。

この添加物質をマトリックスモディファイヤー(マトリックス修飾剤)という。

マトリックスモディファイヤーの効果

灰化時に分析対象元素が飛んでいきにくくする
灰化温度を高く設定できる
→測定感度の上昇

灰化時に共存物質を飛んでいきやすくする

原子化時に分析対象元素が蒸発しにくくなる
→測定感度の低下

特にヒ素As、セレンSe、鉛Pbなど原子化温度が低い元素にマトリックスモディファイヤーを添加すると原子化しづらくなる。

対策:原子化温度を少し高く設定する


海水中の微量元素の定量において、塩化ナトリウムによるバックグラウンド吸収の影響を小さくするには、高温で反応する物質を炉内で直接添加する方法が有効。


AAS試料の前処理方法

コンタミ防止のため、AASでは前処理は必要最小限にとどめるべき。

前処理の目的

固体試料の溶解
液体試料中の有機物の分解

希釈処理

固体試料は水やエタノールなどで希釈し、溶液にして測定用の試料とする。

溶液化の際、硝酸酸性に調製すると測定時の再現性がよくなる。


灰化処理

有機物を多く含むなど、原子吸光光度計での直接原子化がしにくい試料は灰化する。

湿式灰化

試料に酸を加えてホットプレートなどで加熱し、有機物を分解する灰化方法。

乾式灰化よりも低温で分解する。

酸の種類
硝酸+硫酸
硝酸+硫酸+過塩素酸
硫酸+過酸化水素

乾式灰化

試料をるつぼなどの容器に入れ、電気炉を使用して試料を500℃程度で数時間加熱し、有機物を分解する灰化方法。

灰化が不十分な時は硝酸マグネシウムなどの灰化補助剤を使用する。

なお、単純に加熱しただけだと、沸点の低い元素は灰化中に飛んでいってしまう。
たとえばヒ素とか。