FT-IRのお仕事

Fourier Transform Infrared Spectroscopy

赤外分光法とは

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赤外分光法とは


分光分析(ぶんこうぶんせき、Spectroscopy)って何だ?

光は電磁波であり、電磁波はその名のとおり「波」です。

電磁波(光)が物質に照射されると、物質は電磁波の吸収や透過、そして反射などの物理現象を起こします。

そうした物理現象の結果として得られた波の応答は、物質ごとに固有の特徴を示します。

この物理現象を分析する科学の分野を分光分析(ぶんこうぶんせき、Spectroscopy)と呼んでいます。


分光光度計とは?

一般に分光分析では分光光度計(ぶんこうこうどけい、Spectrometer)と呼ばれる機器を用いて電磁波(光)を特定の波長領域ごとに分散(分光)させます。

分光光度計は光源から出た光をプリズムや回折格子を用いて波を波長ごとに分光させ、スリットで特定領域の波長を選別しています。

分光光度計内部では分光によって得られた単色光が試料に入射されます。尚、この時の試料への入射光の強度をIoという文字記号で表します。

試料を透過した光の強度(I) は光電子増倍管(photomultiplier tube、PMT)等の検出器で検出されます。

検出器で検出された試料透過後の光の強度 (I)は透過率あるいは吸光度に換算されます。

.     セル厚さd
入射光Io ⇒ [ 試料 ] → 透過光I → 検出! → 透過率または吸光度


透過率(T、%T:Transmittance)とは

透過率は試料に入射した光に対してどれだけの光が透過したかを表す比です。

FT-IRなどで試料(液体、固体)を測定した時には透過率を用いています。

透過率T〔%〕=(透過光I / 入射光Io)×100

透過率T〔%〕= 透過した光 ×100
        入射した光


吸光度(A:Absorbance)とは

吸光度は透過率(T)の逆数(1/T)の常用対数(log)で表された数値です。

ランバート・ベールの法則(Lambert-Beer law)から、吸光度の値が大きいほど、光の吸収具合は大きい(=試料濃度は高い)ことを意味します。
紫外可視分光光度計や原子吸光光度計で液体試料を測定した時には吸光度を用いています。

A = log(1/ T)
= -log T
= -log ( I/Io )
= ε c d

(溶質濃度が高いほど、光路長が長いほど、光の吸収の度合いは大きくなる)

A:吸光度〔-〕 ←吸光度には単位がない
I:透過した光の強度〔-〕
Io:入射した淡色光の強度〔-〕
T:透過率(T=I/Io)←試料に入射した光に対してどれだけの光が透過したかを表す比

ε:モル吸光係数 〔L・mol-1・cm-1 : -〕
c:光を吸収する物質の濃度〔mol/L〕
d:光が透過する長さ(吸収層の厚み)〔cm〕


赤外分光法とは?

赤外分光法(IR:Infrared spectroscopy)とは物質を構成する分子の構造を知るためのツールです。

赤外分光法を使うと、分子内にどのような官能基が存在するのか推定することができます。

赤外分光法の原理

この世界のあらゆる物質は様々な原子が様々な化学結合により分子を形成し、それらの分子が多数組み合わさって巨大分子(高分子)を構成しています。

様々な種類の原子が結合したものを分子と呼びます。

赤外線が分子に吸収されると、分子を構成している原子が分子内で振動します。

赤外線は紫外線や可視光線よりも波長が長いためそのエネルギーは小さく、分子に吸収されると分子内の振動に費やされます。

光エネルギー〔J〕=プランク定数〔J・S〕×光速〔m・s-1〕÷波長〔m〕

分子の中の原子結合をモデル化すると、原子は球に、原子間の化学結合はバネに見立てることができます。

この球とバネでできたモデル(つまり分子)に赤外線を照射すると、照射した赤外線と同じ振動数で振動しているバネは赤外線を吸収し、吸収した分の赤外線のエネルギーによってバネの振動はより激しくなります。

一方で同じ振動数をもつバネがない場合、赤外線は吸収されずにそのまま分子を透過します。

このように赤外線をある分子に照射すると、ところどころの波数領域の赤外線が分子内のところどころのパーツ(官能基)に吸収されます。

吸収された領域の赤外光は弱められるので、赤外線の波数を横軸にとり、縦軸に試料を透過した赤外線の強さを目盛ると、ところどころに吸収帯のあるスペクトル(赤外吸収スペクトル、IRスペクトル)が得られます。

この赤外線の吸収は分子内の官能基に固有であるため、得られたIRスペクトルを解析することにより分子の構造解析や対象試料の物質同定を行うことができます。

このように赤外分光法(Infrared spectroscopy、IR)は分子の赤外線の吸収度合いを測定し、分子の部分構造を明らかにすることができます。

赤外分光分析(IR分析)の測定機器

対象試料に光を照射したとき、その試料の情報を含んだ三つの光が得られます。

試料の情報を含んだ三つの光

(1)透過光
(2)全反射光
(3)拡散反射光

赤外分光分析(IR分析)では、これら三つの光の赤外領域の吸収具合を測定します。
そのための測定装置は大別して以下の二つです。


1. 分散型分光器

分散型分光器は、試料を透過した後の光を回折格子により分散(分光)させ、波長を変化させて各波長を検出器で検出することによって赤外吸収スペクトルを測定する分光器です。


2. 干渉型分光器

干渉計によって連続光の一部に光路差を与えて得られる干渉波をコンピュータでフーリエ変換させて成分波のスペクトルを得る分光器です。

フーリエ変換により吸収スペクトルを得るフーリエ変換型赤外分光光度計(Fourier transform infrared spectrometer、FT-IR分光光度計)が主流です。


2-1. フーリエ変換型赤外分光光度計

(Fourier transform infrared spectrometer、FT-IR分光光度計)

赤外分光光度計には回折格子を用いた分散型とフーリエ変換型とに大別されます。

より多く用いられているのはフーリエ変換型赤外分光光度計(Fourier transform infrared spectrometer、FT-IR分光光度計)です。


FT-IRの測定原理

フーリエ変換赤外分光光度計は赤外光源から出た測定領域の全波長の光を二つのビーム(光束)に分け、そのうち一方が他方より少しだけ長い可変の光路を通るように設計してあります。

二つのビームが再び一つになるときに光の干渉現象が起き、干渉波(光の強弱)が生じます。

この干渉波は試料を透過して検出器に行き着きます。

検出器で検出された干渉波の情報をコンピュータでフーリエ変換すると、波数〔cm-1〕に対して赤外光の透過率(または吸光度)をプロットしたスペクトル(赤外吸収スペクトル)が得られます。

スペクトル縦軸が透過率(%T)の場合、その赤外吸収スペクトルの縦軸表示は0%~100%表示となります。

以下の規格では縦軸が透過率の赤外吸収スペクトルが用いられています。

(1)JIS(Japanese Industrial Standards、日本工業規格)、
(2)日本薬局方(Japanese Pharmacopoeia)、
(3)ASTM(American Society for Testing and Materials、米国試験材料協会)


2-2. FT-IR分析の方法

FT-IR 分析は試料の情報を含んだ光の赤外領域の吸収具合を測定しています。

FT-IR分析の方法としては、
透過法(液膜法、溶液法、錠剤法、ヌジョール法)
が一般的です。

なお透過法のほかにも
全反射法、
拡散反射法、
顕微赤外法
などがあります。


バックグラウンド測定とは

バックグラウンド測定とはFT-IR分光光度計の試料室にサンプルがない状態での測定のことです。

FT(フーリエ変換)-IRの測定はシングルビーム方式の測定であり、FT-IR分光光度計は直接サンプルの透過率(%T)を測定できません。

そのためまずバックグラウンド測定を実施した後に、サンプルをセットして測定を行います。

そうして両者の比を計算することによって、サンプルの透過率を求めます。


2-2-1. 液膜法(これは透過法に分類される)

対象試料:液体試料

液膜法の測定手順

(1)対照(ブランク)として液体試料を塗布していない2枚の窓材を使用してパックグラウンド測定を行う。
(2)液体試料を2枚の窓材(KBr製、NaCl製等)の間に塗布する。
(3)液体試料のIRスペクトルを測定する。
赤外分光分析の窓材には、赤外線を透過する塩である臭化カリウム(KBr)やフッ化カルシウム(CaF2)を使用するのが一般的。


2-2-2. 臭化カリウム(KBr)錠剤法(これも透過法に分類される)

対象試料:微粉末にできるもの
ただし、臭化カリウム(KBr)は吸湿性があるので取り扱いに注意。

臭化カリウム錠剤法の測定手順

(1)対照(ブランク)として試料の約100倍量の臭化カリウム(KBr)をすりつぶす。
(2)臭化カリウムのみの錠剤を作成し、パックグラウンド測定を行う。
(3)固体試料およそ数mgを臭化カリウムに加え、粉末状にすりつぶす。
(4)錠剤成形器を用いて錠剤化する。
(5)試料のIR測定を行う。

錠剤法で塩化物等を測定する場合は塩化カリウム(KCl)で錠剤を作成する。

その理由は塩化物に臭化カリウム錠剤法を用いると塩交換(Br⇔Cl)の可能性があるから。


2-2-3. ATR法(Attenuated Total Reflection法、これは全反射法)


ATR法の測定手順

(1)対照(ブランク)としてATRプリズム面に何も密着させない状態でバックグラウンド測定を行う。
(2)ATRプリズム面に試料を密着させ、試料のIRスペクトルを測定する。

全反射法は測定対象をATRプリズム面に密着できさえすれば、測定対象を直接IR分析できるメリットがあります。(非破壊検査が可能)

たとえば何らかの異物(ゴム片、プラスチック片、繊維等)のIR分析をしたい場合、ATR法ではその異物がATRプリズム面に密着できさえすれば、測定が可能です。

なおATRプリズムに密着できないような凹凸の大きな試料はATR法では測定できません。

何らかの化学成分の同定を行う場合、たとえば布に含まれる染料の種類を同定しようとする場合などでは、溶剤で染料を抽出する必要があるため破壊分析となります。

こういう時は1600cm-1以上の領域で大きなシグナルをもたない四塩化炭素CCl4を溶剤として使用できます。